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エクソームシーケンスが、ゲノム上の変化とそれによって生じる病気の理解にどのように役立つのかをご紹介します。

私たちの体を構成する一つひとつの細胞の核の中には、「ゲノム」と呼ばれるDNAの情報が含まれています。これは、その人固有の設計図や取扱説明書のようなものです。ゲノムの中には「遺伝子」と呼ばれる領域があり、ここにはタンパク質を作るための指示が書かれています。

タンパク質は、生命の形や働きをコントロールするための重要な道具です。受精の瞬間から現在に至るまでの発生や成長は、すべてタンパク質の働きによって制御されています。また今この瞬間も、タンパク質は食べ物をエネルギーに変換するなど、生命を維持するために休むことなく働いています。人はそれぞれ自分自身のゲノム情報をもとに成り立っていますが、ゲノムの配列に変化が起こることがあります。これを「変異」と呼びます。このような変異によって問題が生じると、さまざまな病気の原因になります。エクソームシーケンスは、こうしたゲノム上の変化を解析し、病気との関係を理解するための手法であり、近年では医療の現場でも日常的に使われ始めています。
常的に使われ始めています。

がんは、その代表的な例の一つです。がんは世界人口の約3人に1人が、何らかの形で関わる病気とされています。体内のほぼあらゆる細胞から発生する可能性があり、生まれつき受け継いだ遺伝的な変化や、人生の途中で生じた変異によって引き起こされます。がん細胞では、細胞分裂を制御する仕組みが壊れ、制御不能に増殖することで腫瘍が形成されます。

また、一部のがんや嚢胞(のうほう)性線維症のような先天的な遺伝性疾患は、両親から受け継ぐ配偶子(精子や卵子)の段階ですでに遺伝子に変異があることが原因です。そのため、体内のすべての細胞が同じ遺伝的な問題を抱えることになります。ゲノム配列のたった一文字の変化でも、体の機能に不可欠なタンパク質の働きを完全に失わせてしまうことがあり、小さな変化が非常に大きな生理的影響を及ぼすこともあります。

これは、男性の23対の染色体を顕微鏡で撮影し、核型解析(カリオタイピング)のために並べた画像です。染色体は、細胞が分裂・複製する際に、約33億塩基対からなるゲノム情報を効率よく収納するための構造です。各染色体のペアのうち、一方は精子から、もう一方は卵子から受け継がれています。

出典:Wikimedia Commons(著者:NIH)

ヒトのゲノムは、病気や遺伝と切り離せない深い関係にあります。そのため、ヒトゲノム計画によって約33億文字にも及ぶゲノム配列が解読されたことは、20世紀最大級の科学的成果の一つであると同時に、現代医療における最も重要な進歩の一つといえます。ヒトの標準的なゲノム配列(リファレンスゲノム)にアクセスできるようになったことで、病気と遺伝子の関係についての理解は飛躍的に進み、病気の原因となる変異の特定が格段に容易になりました。

ゲノム医療とは、患者さんの遺伝子配列情報を、診断や治療方針の決定に活用する医療のことです。すでに、さまざまながんにおける原因の解明や最適な治療法の選択、病気の予測や予防、個人差のある薬剤反応(薬理学)の理解、さらには希少疾患や原因不明疾患の診断などにおいて、実際に成果を上げています。

ゲノム医療は「個別化医療(パーソナライズド・メディシン)」の一形態でもあります。これは、すべての患者に同じ治療を行う「画一的な医療」ではなく、患者一人ひとりの遺伝的背景や医学的特徴に基づいて、最適な治療を選択する医療の考え方です。

ヒトゲノムに関する理解が進んだことで、BRCA1のような病気と関連する遺伝子の代表的な変異は、比較的簡単な検査で見つけられるようになりました。このような遺伝子検査により、患者さんは医師や遺伝カウンセラーと相談しながら、自分にとって最適な治療や予防の選択肢について話し合うことが可能になります。

2013年には、映画俳優のアンジェリーナ・ジョリー氏が、ニューヨーク・タイムズ紙にMy Medical Choice(私の医療上の選択)」という記事を寄稿しました。この記事では、彼女が選択肢の一つとして、予防的な両側乳房切除術を受ける決断をした経緯が語られています。

彼女は血液検査により、乳がんや卵巣がんのリスクを大きく高めるBRCA1遺伝子の変異を受け継いでいることが判明しました。その結果、乳がんや卵巣がんを発症するリスクが87%に達すると説明されました。これらのがんは、彼女の家族の多くの女性も経験していた病気でした。予防手術を受けたことで、現在の乳がん発症リスクは約5%まで低下したとされています。BRCA1とその重要性については、Cancer.govで詳しく紹介されています。

一方で、個別化医療には「費用が高く、誰もが利用できるわけではない」という課題も指摘されています。BRCA1のように、原因が単一の遺伝子変異であることが分かっている疾患の場合、調べるべき領域が明確で、33億文字すべてを解析する必要がないため、検査コストは比較的低く抑えられます。しかし、多くの疾患、特に希少な遺伝性疾患では、どの遺伝子のどの変異が原因なのか分からないケースが少なくありません。その場合、患者さんのゲノム全体を解析する必要があり、時間や費用の面で大きな負担となることがあります。

最初に作成されたヒトゲノムのドラフト配列は、サンガーシーケンスと呼ばれる低スループットな手法によって解析され、その費用は約30億ドルにも及びました[1]。しかし、この10数年で次世代シーケンス(Next-Generation Sequencing:NGS)技術が急速に進歩し、シーケンスにかかるコストは劇的に低下しました。2008年にはヒト1ゲノムの解析に約1,000万ドルが必要でしたが、現在では解析費用を除けば、約1,000ドルまで下がっています[2]。

次世代シーケンスでは、ゲノムDNAを数百万もの非常に小さな断片に分割します。これらの断片を並列に解析し、その後、短い配列同士をつなぎ合わせることで、元のゲノム配列を再構築します。得られた患者さんのゲノムデータを、公開されているリファレンスゲノム配列と比較することで、その人の遺伝的特徴や、病気につながる可能性のある異常な違いを見つけることができます。これにより、治療方針の決定や新たな医学的発見につながります。

シーケンス実験の品質を評価する代表的な指標の一つが「カバレッジ」です。これは、リファレンスゲノム上の同じ配列が、何回シーケンスデータとして読み取られたかを示します。業界標準では、最低でも30×(30倍)のカバレッジが求められます。これは、ゲノム中の各塩基が平均して30回読まれていることを意味し、データの信頼性や配列再構築の正確性を担保するための重要な基準で

エクソームシーケンスは、ゲノムシーケンスを補完する解析手法です。全遺伝性疾患の約85%は遺伝子領域の変異によって引き起こされることが知られていますが、実はヒトゲノムのうち遺伝子が占める割合はわずか約1%しかありません。遺伝子と遺伝子の間には、非コード領域と呼ばれる配列が存在し、これらはタンパク質への翻訳量の調節や、DNAが染色体として折りたたまれる三次元構造の維持など、重要な役割を担っています。

多くの患者さんや研究者にとって、ゲノム全体ではなく、タンパク質をコードする遺伝子領域のみに解析対象を絞ることができれば、時間やコストを大幅に削減できます。この遺伝子領域の集合体は「エクソーム」と呼ばれています。推定では、30×の全ゲノム解析は、40×のエクソーム解析と比べて、総コストが4倍以上になるとされています[3]。

一般的なエクソームシーケンスの流れは、全ゲノム解析と同様に、まずゲノムDNAを小さな断片に分解するところから始まります。その後、断片の混合物の中からエクソーム領域のみを「キャプチャ(捕捉)」します。DNAは相補的な2本鎖構造を持っていますが、200℉(約93℃)以上に加熱すると、この二重らせん構造がほどけます。ヒトゲノム計画によってエクソームの配列が既に解読されているため、各遺伝子領域に相補的な短い合成DNAを設計することが可能です。これらの合成DNAを固相表面に固定すると、ゲノム断片の混合液中から、相補的なエクソーム配列だけを選択的に結合・回収することができます。

世界人口の最大約8%が、遺伝性の「希少疾患」を抱えていると考えられています。現在、7,000種類以上の希少疾患が知られており、その数はエクソームシーケンスや全ゲノムシーケンスといった技術によって、原因不明だった疾患の遺伝的背景が解明されるにつれて、さらに増え続けています。これらの疾患は、遺伝子中の1文字(例えばAがTに変わる)といった単一塩基の置換、別のゲノム領域やウイルス由来DNAの挿入、数塩基の欠失、あるいは染色体の一部が別の染色体に移動するなど、さまざまな変異によって引き起こされます。こうした変化は、いずれもエクソームシーケンスによって検出可能です。そのため、多くの患者さんにとって、エクソーム解析は、低コストで実施できる標的治療への第一歩となり得ます。

一方で、エクソームシーケンスは決して簡単な手法ではなく、臨床研究に利用できる高精度なデータを得るためには、高品質な試薬やエクソームキャプチャ用DNAが不可欠です。

Twist Bioscienceは、高スループットかつ高品質なDNA合成技術のリーディングカンパニーです。エクソームキャプチャライブラリをはじめ、あらゆるDNA断片のキャプチャは、Twist Bioscienceの合成DNAが特に力を発揮する分野です。現在、Twist Bioscienceは、リファレンスヒトゲノム中のすべての遺伝子を対象とした合成DNAプローブを含むエクソームキャプチャキットを提供しており、エクソームシーケンスのコストを30%以上削減することが可能です。詳細については、Twist Bioscience Human Core Exome Enrichment Kitの製品ページをご覧ください。

[1] NIH. Human Genome Project Completion: Frequently Asked Questions.

[2] Warr, Amanda et al. “Exome Sequencing: Current and Future Perspectives.”G3: Genes|Genomes|Genetics 5.8 (2015): 1543–1550. PMC. Web. 8 Jan. 2018.

[3] Warr, Amanda et al. “Exome Sequencing: Current and Future Perspectives.”G3: Genes|Genomes|Genetics 5.8 (2015): 1543–1550. PMC. Web. 8 Jan. 2018.